ある日 一面分の新聞広告に その人がいた。
そのまなざしはまっすぐ 私を見ていた。
釘付けになり「描きたい」と思った。
有名な方だから モデルになっていただく訳にはいかない。
その新聞広告を切り取り 8号のキャンバスにクレパスで
描き始めた。似てるとか似てないとかはもう問題ではなく
私を射すくめたその人を描きたかった。
「まりこさん」を描いていたら 以前描きかけていた絵のことを
思い出した。それは ラダックの美しい仏さまだった。
勿論これも本物を見た訳ではなく 写真を見たのだ。
絵を描いていると よく「写真を見て描いてはいけない」とか
「本物を見て描け」と言われるが 貧しい私には お金も自由な
時間もなく ラダックには行きたくても行けない。
描きたいと切実に思うものは いつも遠いのだ。
何と言われようと 本物から遥かに遠くあれど 描きたい。
そう思いつつ 途中で挫折した仏さんをひっぱり出してきた。
まりこさんが呼んだのだ。何とか仕上げて 名前を考えた。
美しい仏さんは「真理仏」 まりぶつさんだ。
何となく 二人は似ていた。
次に 私を魅了したのは またもや新聞広告の「まりりんさん」
10号のキャンバスボードにクレパスで描いた。
描いていて思ったことは この人はふわふわしていて頼りなくて
セクシーに媚を売っている人だと思っていたけれど その骨格は
あごがはって 額も角ばり 鼻もがっしりしていた。
薄目を開けて 半開きの口に すっかりだまされていた。
まりりんさんは 男が好きな女を演じていたのだな。
真っ赤な唇をしっかり閉じて まりこさんのようにまっすぐな
まなざしを向ければ きっと聡明な顔が現れたと思う。
そう思ったところで クレパスを置いた。
右目を三度も描き直し ほぼ下絵のままだけど 毎日見ていたら
これでいいかなと思った。
タイトルは「まりりんさん」では「三まり」になるので「M2」
描きたい顔しか描かないけれど 描きたい顔には 意志がある。
やっぱり はじまりは「まりこさん」かな。