樫野の集落に入り 浜へ下りずに真っ直ぐ進むと 道幅が少し広くなり三叉路が見えてくる。この広い道が「芝居の道」だと連れ合いが教えてくれた。その昔、まだテレビもラジオも何もない頃のこと 船でしか来ることができない小さな島の そのまた東のはずれにあるこの道で どんな芝居や歌や踊りがされていたのだろうか。
今はただの道で 三叉路の広い方の道を行くと阿野木の浜と前の浜 海金剛や日米修好記念館に続いている。時々観光客の車が通っていく。もう一方は車一台がぎりぎり通る狭い路地だ。昔は道も舗装されていなくて土の道だった。野外であるし あまり音は響かないのかなと思う。
三味線のお稽古を続けているけれど 他の人と合わせて弾けそうもないので よく冗談で一人で歩いて門付けできるようになったらいいんだけど・・・と言ったりしていた。芝居の道で三味線を弾く自分を想像してみたりする。あるいはアコーディオンを抱えて歌ってみるとか・・・できっこないけど 芝居の道には「ロマン」があると思う。「芝居の道」という言葉に「ロマン」があるのだな。
土の道の 三叉路の前で 白塗りの顔で赤いぺらぺらの着物など着て 三味線を弾いて 昔の人には考えられないような現代舞踏など踊り ストリートパフォーマンスができるくらい度胸のある人間にはとうとうなれそうもない。